カミカミアナウンスの魅力。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その①〜

こんにちは。マミです。

 

記事タイトルにもある通り、今回からいよいよ、「チェブラーシカ」のDVDを使ったロシア語解説を初めてまいります。

 

もともと「親ブログ」の方で不定期に進めていた、この「チェブラーシカ」プロジェクト。

初見の方のために改めて簡単に説明すると、ソ連時代(1969〜1983年)に製作された人形アニメチェブラーシカ」の短編フィルムのロシア語スクリプトを和訳し、単語一つ一つについて吟味しながら詳しく解説していくプロジェクトです。

 

 使用するDVDは、こちら。

www.ghibli-museum.jp

三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーより発売されている、日本語吹き替え・字幕つきのDVDです。

 

そして、ロシア語スクリプトについてはこちらのサイトを参考にしています。

wiki2.org

 

ただ、上のロシア語サイトに掲載されたスクリプトと日本版DVDでは編集が異なる箇所もあり、作品中のロシア語を完璧に拾いあげることができない場合もございます。その場合は正直に申し上げますので、どうかご容赦くださいませ。

 

また、ロシア語力としては中級に片足を突っ込んでいる程度の私ですので、文法解説が間違っていたり、もっと率直に「ここは意味がわかりません」と宣言したりすることもあります。辞書、文法書、そしてインターネットを駆使して自分のできる限りの解説をしてまいりますので、そのあたりもご了承いただければと思います。

 

ちなみに、もしこのブログをご自身のロシア語学習に役立てたいとお考えの方で、されどDVDを買うのはハードルが高いとお感じの方は(なるべく買っていただけるように全力でおススメはしますが)、…有名な作品ですので某大手動画サイトなどで検索すれば、作品を閲覧することは可能かと思います…と、こっそりと申し上げておきます。

ただ、やっぱり公式に販売されているDVDを買うのが一番だとは思いますよ!

 

ちなみに、主人公チェブラーシカの日本語吹き替えを担当しているのは、超・売れっ子声優の大谷育江さんです。なんとピカチュウやチョッパーの声をしている人! これがまたかわいい声でチェブちゃんにピッタリなんだわ(本プロジェクトとは関係ないけど…)。

 

さて、前置きがたいへん長くなりましたが、いよいよ始めたいと思います。

DVDに収録された4つの短編のうち、2作品は親ブログで既に解説済みですので(下にリンクを張っておきました)、3作目の"Шапокляк"(シャパクリャク)から始めたいと思います。

ロシア語スクリプトと和訳を青字で書き、特にスクリプトの部分は太字にしてあります。

和訳は私が独自に訳したものです。もし間違いやご指摘等ございましたら、遠慮なくコメントをお願いいたします。

 

※作品情報や「チェブラーシカ」プロジェクトを始めるに至った詳細などについては、こちらの記事をご覧ください(移転前の元ブログへのリンクです)。

「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ。〜プロローグ〜

 

 また、既に解説済みのエピソードについては、下記リンクをどうぞ(こちらも元ブログ)。

短編一作目『ワニのゲーナ』

短編二作目『チェブラーシカ』

 

 

では、まいります。

 

舞台は列車の駅。構内アナウンスから始まりますよ。 

 

アナウンス:Внимание, внимание!(皆様にお知らせいたします)

Поезд номер восемь, Москва-Ялта, отправляется с мос... с восьмого пути,
(8号列車、モスクワ発ヤルタ行き、モス番…8番線から発車いたします)

в восемь часов по восмовскому времени ...
(ボスモワ時間で8時に…)

извините, повторяю.  По московском времени, с мосво... с, с мосьвого пути.
(失礼しました、繰り返します。モスクワ時間、モスボー…えーと、モス番線から。)

 

このアナウンス、内容がちょっと言いづらくて、カミカミになっちゃってます。

「訂正します」と言いつつまた噛んで、言い間違えたまま強引に終了。

アナウンスが伝えたかった内容、正確には以下の通りです。

 

Поезд номер восемь, Москва-Ялта, отправляется с восьмого пути, 
в восемь часов по московскому времению.

(8号列車、モスクワ発ヤルタ行きは8番線より、モスクワ時間8時に出発します)

 

これ、私も発音してみたのですが、確かにややこしくて舌を噛みそうなアナウンスです。

特に下線を引いた"восемь"(8)と"Москва"(モスクワ)という2つの単語。それぞれ何度も繰り返し出てきますが、мとвの文字の位置関係が逆なので、この2つがごっちゃになってうまく発音できないのですね。

 

具体的に、どのようにごっちゃになっているかというと。

"московскому"(もすこーふすかむ:モスクワの)が"восмовскому"(ゔぉすもーふすかむ)に、

"восьмого"(ゔぁしもーゔぁ:8)が"мосьвого"(ましゔぉーゔぁ)になってしまっています。

 

チェブラーシカ」の作品に出てくる人物は、みんな心優しく、でもどこか不器用。

そんな独特の空気感が駅のアナウンスにまで表れているのが、なんだか可笑しく、そして愛おしいような気持ちになるのは、私だけでしょうか。

 

さて、アナウンスの内容を文法的にみていきましょう。

 

"внимание"は「注意、注目」という意味の名詞。

ここでは「お知らせします、注意してお聞きください」くらいの意味で、英語の「アテンション・プリーズ」と同じように使われます。

教室などで先生が生徒に「はい注目〜!」とやるときも、この"Bнимание!"が使われるそうです。

 

"поезд"は「列車」。"поезд номер восемь"で「8号の列車」となります。

"Москва-Ялта"で「モスクワ発ヤルタ行き」。ヤルタはクリミア半島南端に位置し、黒海に臨む観光地です。「ヤルタ会談」とか世界史で習ったなあ。

"отправляется"は「出発する」という意味の動詞"отправляться"の三人称単数形。

"с восьмого пути"は、「〜から」という起点をあらわす前置詞"с"に"восьмой путь"(8番線)を接続したもの。"с"の要求で生格形に格変化しています。

合わせて、"отправляется с восьмого пути"で「8番線から出発します」となります。


"в восемь часов"は「8時に」。

"по московскому времению"は"московское время"(モスクワ時間)が前置詞"по"の要求で与格になった形。「モスクワ時間で」となります。

ロシア(当時はソ連)は広大なので、国内でも都市間で時差があるのですね。長距離を移動する列車の時刻は、それがどの都市での時刻なのかしっかり確認しないと大変なことになりそうです。

 

さて、そんな長距離列車の出発を待つホームに、我らがチェブラーシカとワニのゲーナが登場します。

大荷物に浮き輪なんか持っちゃって、これからヤルタにバカンスに出かけるのですね。意気揚々と列車に乗り込んでいきます。

しかし、そのあとを追いかけるように現れた、いじわるばあさんのシャパクリャク。ペットのクマネズミ・ラリースカとともに列車の上によじ登って、何か企んでいるようです…。

 

座席についたチェブとゲーナ。がくんと列車が出発したときの勢いで、チェブラーシカがすっ転んでしまいました。

 

ゲーナ:Чебурашка, Чебурашка, где ты?チェブラーシカチェブラーシカ、どこだい?)

チェブ:Вот он я, Ген, вот он.(ほら、僕はここだよ、ゲーナ、ここにいるよ。)

 

相変わらず、ゲーナはチェブの保護者みたいですね。

チェブが言っている"Вот он я."という文、直訳すると「ほら、彼はここだよ、僕だよ」となってなんだか不自然ですが、ロシア語ではこういうふうに三人称を使うものなんですかね。

 

ちなみに以前解説した短編二作目でも、「ゲーナさんはここにお住まいですか?」と聞かれて

"Да, он живёт здесь. Это я.(はい、彼はここに住んでいます。それは私です。)"

と答える、というやり取りがありました。やっぱり「彼」と先に言うんだなあ。こういう「ネイティヴにとって自然な言い回し」が学べるのが、DVD学習の醍醐味ですね。

 

続けます。

チェブとゲーナが下を向いている間に、窓からシャパクリャクとラリースカが現れ、切符を持ち去ってしまいました!

そこへ車掌さんが現れます。

 

車掌:Граждане, предъявите билетики.(お客さん、切符を見せてください。)

チェブ:Гена, билетов-то нет. Может, ты проглотил.
(ゲーナ、切符がないよ。ひょっとして、飲み込んじゃったの。)

ゲーナ:Вряд ли.(まさか。)

チェブ:Вы знаете, они были, честное слово. Были.
(わかりますよね、切符はあったんです、本当です。あったんです。)

ゲーナ:Были.(あったんですよ。)

車掌:Были... Были, да сплыли. На следующей станции высадим.

(あった、ねえ…あったけど、消えちゃった。次の駅で降りましょうか。)

 

"граждане"は「市民」を意味する名詞"гражданин"の複数形。

ここでは「お客さん」と呼びかける意味で使われています。

"предъявите"は完了体動詞"предъявить"(見せる、示す)の複数命令形。不完了体は"предъявлять"です。

"билетики"は"билет"(切符)の指小形"билетик"の複数形です。

 

切符を拝見、と言われたけれど、さっきシャパクリャクにスられちゃったんですよね。さあ困った。

 

チェブが"билетов-то нет"と言っています。"билет"が「ない」ので、否定生格(2枚あるので複数生格)で"билетов"となっていますね。

"может"は「〜できる」という意味の動詞"мочь"の三人称単数形ですが、慣用的に「ひょっとして…」という意味で用いられる表現です。

"проглотил"は「飲み込む」という意味の不完了体動詞"проглотить"の男性形過去。完了体は"проглатывать"です。
"вряд ли"は、文頭に置き、確たる実現の見通しを持てないことを示すフレーズです。「まさか」とか、「まず〜ない(はずだ)」といった訳をあてます。

手許にあった参考書に用例も載っていたので、引用しておきますね。

 

Вряд ли носитель языка этого не поймёт.

(これがネイティブに分からないということはまずないでしょう。)

三修社「口が覚えるロシア語 スピーキング体得トレーニング」より)

 

切符がないけど、ゲーナ食べてないよね? と、本気なんだかボケてるんだかわからないチェブ。

 

"Вы знаете"は直訳すると「あなたは知っています」ですが、「わかりますよね?」と同意を求めるときに使われるフレーズでもあります。英語の"you know"に近いかな?

"честное слово"も「正直な言葉」と訳すことができますが、「本当なんです、ウソははついていません」と釈明したりするときに用いられます。

 

今はないけど、確かにあったんですよ!! …と、視聴者にはそれが真実だとわかっているんですが、無賃乗車したい人だって同じように言うでしょうからねえ…。

 

車掌さんは「ふうん…」と冷たい反応。"Были... Были, да сплыли."と返します。

"сплыли"は「消える、持ち去られる」という意味の動詞"сплыть"の複数形過去。「あったけど、なくなっちゃったんだねえ、ふーん」と、明らかに二人の言い分を信じていない様子です。

ただ、"Были... Были, да сплыли."という言い方は韻を踏んでいて、言葉遊びのようでちょっとおもしろいですね。ロシア語は詩的表現が多彩で、こういった遊び心のある表現を一般の人も気軽に使うそうですよ。

続いての車掌さんの台詞。

"на следующей станции"は、前置詞"на"の要求で"следующая станция"(次の駅)が前置格になった形です。

"высадим"は「降りる」という意味の完了体動詞"высадить"の一人称複数形。不完了体は"высаживать"です。

ここでは、一人称複数形なので「次の駅で降りましょうか」と提案しているような形ですが、実質的には「降りなさい」と命令していますね。

 

 

そんなご無体な…、と思ってしまいますが、チェブとゲーナ、次の駅でホントに降ろされてしまいました。

さあ、いきなりの大ピンチ。これからどうなる!?

 

と、ここで今回はいったんお開きといたします。

途方に暮れるチェブとゲーナ。そこに現れる「あの人」の言動は如何に!?

次回をお楽しみに!