ボクが荷物を運んで、キミがボクを運ぶ。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その③〜

こんにちは。ずいぶんご無沙汰してしまいました。

なんとか月2〜3回は更新していきたいんだけどなあ。気持ちだけは途絶えずにやっていこうと思います。

 

さて、今日も元気に人形アニメチェブラーシカ」のロシア語解説を行ってまいります。

 

※作品情報や「チェブラーシカ」プロジェクトを始めるに至った詳細などについては、こちらの記事をご覧ください(移転前の元ブログへのリンクです)。

「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ。〜プロローグ〜

 

 また、既に解説済みのエピソードについては、下記リンクをどうぞ(こちらも元ブログ)。

短編一作目『ワニのゲーナ』

短編二作目『チェブラーシカ』

 

現在解説中の『シャパクリャク』これまでの記事はこちらです。

カミカミアナウンスの魅力。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その①〜

ロシア語は流行歌も美しい。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その②〜

 

バカンスのためヤルタへ出発したももの、切符を失くして列車を降ろされてしまったチェブラーシカとゲーナ。

意気消沈しているところへ、いじわるばあさん・シャパクリャクの登場です!

失くしたはずの二人の切符をひらひらと見せびらかし、列車の陰に隠れたり上によじ登ったり、縦横無尽に動きまわるシャパクリャク

 

チェブ:Ой, Гена, смотри!(ねえ、ゲーナ、見て!)

チェブ&ゲーナ:Стой!(待てー!)

シャパクリャクБудете знать, как без меня кататься!
(わかるでしょう、私がいないと乗れないんだよ!)

チェブ&ゲーナ:Стой!(待てー!)

シャパ:Стой-постой - карман пустой!( 待てど暮らせど、ポケットは空っぽさ!)

 

"cтой"は「立つ、止まる」という意味の不完了体動詞"cтоять"単数命令形。

"будете знать"は複合未来形が使われていて、直訳すると「あなた達は知るだろう」。

何を知るかというのが、そのあとの"как без меня кататься"の部分ですね。

"без+生格"の形で「〜なしで」となるので、"без меня"は「私なしで」。

"кататься"は「(乗り物に)乗る」という意味の不完了体動詞です。

合わせて「私なしで、どうやって(列車に)乗るか、知ることになるだろう」となります。

これは、シャパクリャクばあさんが「私なしでどうやって列車に乗るか考えてごらん、この切符がないと乗れないと思うけどね〜」と、二人の悔しい気持ちを煽るつもりで言っているのだと思います。

シャパクリャクを屋根の上に乗せたまま列車は動きだしてしまい、チェブとゲーナは為すすべもありません。

 

このあとの"Стой-постой - карман пустой!"は、韻を踏んでいて、ちょっとした言葉遊びになっていますね。

"карман"は名詞で「ポケット」。

"пустой"は形容詞で「空っぽ」という意味です。

 

シャパクリャクばあさん、そのまま列車に乗って退場するのかと思いきや、トンネルにぶつかって列車から落ちてしまいました。

それでも線路沿いに走って去っていくシャパクリャク。周りに何もないところで列車から降りちゃった以上、境遇としてはゲーナ組と似たようなかんじに見えますが、一体どうするつもりなんでしょうね…?

 

さて、その場にぽつんと取り残されてしまったチェブとゲーナ。

 

 

ゲーナ:Ну что ж, пойдём домой.(仕方ないね、家に帰ろう。)

 

"ну что ж"は「まあいいか」とか「仕方ない」とあきらめを表現するときの決まり文句です。

"пойдём"は「歩き出す、動き出す」という意味の完了体動詞"пойти"の一人称複数形。

 

それにしても、このあきらめの良さよ…!! 

理不尽に切符を盗んでいってしまったシャパクリャクに暴言の一つでも吐きたくなるようなこのシチュエーションで、ネガティブなことはなに一つ言わず、ただ「まいっか、帰ろ」ですもんね。旅の準備までしてきたのに! バカンスなのに!!

 

基本的に、何事にもこだわらず、ただただ現実を受け入れて穏やかに行動するのが「チェブラーシカ」のキャラクターたち。なかなかできることではないと思います。だからこそ時代を超えて愛されるのかもしれないな。

 

でも…、歩いて帰るつもりのゲーナたちですが、後ろの看板には

"До Москвы 200 к.м."(モスクワまで200キロ)

 の文字が。そんなに歩けるんだろうか…?

 

重そうな荷物を持ち、線路をモスクワへ向かって歩きはじめる二人。

 

 

ゲーナ:А знаешь, Чебурашка, осенью на шпалах, никогда не бывай, ни луж, ни грязи.
(知ってるかい、チェブラーシカ、秋になると線路にはね、水たまりも泥も、すっかり無くなってしまうんだよ。)

チェブ:Знаю, Гена, это здорово!(知ってるよ、ゲーナ、それってすごいよね。

ゲーナ:Это очень хорошо!(とっても良いことだよね。)

 

"знаешь"は「知る」という意味の不完了体動詞"знать"二人称単数形。

"осенью"は「秋」という意味の名詞"осень"の造格形で「秋に」となります。

"на шпалах"は名詞"шпала"(枕木)の複数前置格を用いて「枕木には」、つまり「線路の上には」。

"никогда не 〜"は「決して〜ない」という意味を導く構文です。

"бывай"は「ある、存在する」という意味の動詞"бывать"の単数命令形。なぜ命令形になっているのかが判然としませんが…?

続いて"луж"は名詞"лужа"(水たまり)の複数生格, "грязи"は名詞"грязь"(ぬかるみ、泥土)の単数生格。「水たまりも、ぬかるみもない」という意味の文なので、どちらも否定生格の形をとっているのですね。ただ、「水たまり」は一つ、二つと数えることができるので複数、「ぬかるみ」はまとまりとしては考えづらい(数えられない)ので単数として扱われています。

合わせて「秋には、水たまりもぬかるみも、すっかりなくなってしまう」という意味の文となります。

 

それに対するチェブの返事、"здорово"は副詞ですが、述語として「すばらしい、結構だ」という意味にもなります。

 

このお話では、季節はたぶん夏。

(前回の旅人たちの歌で「夏に南へ旅立つ」といっていたので…。)

いまは線路沿いにちょっと歩きづらい泥やぬかるみがあるけど、これもそのうち無くなるはず。秋にはもっときれいな景色が見られるんだろうね…と、これからの季節に思いを馳せているのでしょうか?

 

しかし、歩けども歩けども、モスクワはまだまだ遠く。 

"До Москвы 199 к.м.(モスクワまで199キロ)

と書かれた看板の前で、ゲーナは疲れて座り込んでしまいました。

 

 

チェブ:Гена, тебе очень тяжело нести вещи?
(ゲーナ、君にとって荷物を運ぶの、とっても重くない?)

ゲーナ:Ну, как тебе сказать, Чебурашка... очень тяжело.
(そうだね、まあ何ていうか、チェブラーシカ…とっても重いよ。)

チェブ:Слушай, Гена, давай я вещи понесу, а ты возьми меня?
(ねえ、ゲーナ、僕が荷物を持ってさ、君が僕を持つのはどうかな?)

ゲーナ:Это ты здорово придумал.(それはいいことを思いついたね。)

 

"тебе очень тяжело"とありますが、「重い」という意味の形容詞(短語尾)"тяжело"は、「誰にとって重いか」という部分を与格(ここでは"тебя")で表します。これで「君にとって、とても重い」となります。

"нести"は「運ぶ」という意味の定動詞。"вещи"は名詞"вещь"(荷物)の複数主格形ですね。

"как сказать"はイディオムで、「さあ、何といいましょうか」と言いよどむときの決まり文句です。

 

"cлушай"は「聞く」という意味の不完了体動詞"слушать"の単数命令形ですが、ここでは「ねえ聞いてよ」と提案を切り出す表現として使われています。

"давай"は「〜しようよ」と相手に誘いかける表現。もとは「与える」という意味の不完了体動詞"давать"の単数命令形です。

"понесу"は「運びはじめる、持っていく」という意味の完了体動詞"понести"の一人称単数形。接頭辞"по-"には「動作を始める」という意味があるのですね。

"вещи"は先ほど出てきたのと同じ形ですが、こんどは複数対格形です。

"возьми"は「取る、つかむ」という意味の完了体動詞"взять"の単数命令形。

"придумал"は動詞"придумать"(考えつく、思いつく)の男性形過去ですね。

 

荷物が重いなら僕が持ってあげる、そのかわり僕を君が運んでね! と、まったく意味のない提案をするチェブ。

それに「いい考えだ!」と乗っかるゲーナ。似た者同士です。

こういうおバカなところが愛しい二人なんだよなー。

 

でも、このシーンのゲーナの気持ちを深読みすると、「チェブも疲れてるだろうし、よけいに重くなってもいいから僕がぜんぶ抱えてあげよう…」と考えている可能性も、無きにしもあらず…?

チェブはお手伝いをしていると思っているから、チェブの気も楽なはずだし…。

 

ゲーナがそこまで考えているかどうかはさておき、二人はそれぞれのやり方で、懸命かつマイペースに荷物を運んでいきます。

 

でも、やっぱり重くてイヤんなっちゃったのか、いちばん大きいトランクは途中で置いていくことにしたようです。

…って、線路の上に置いちゃ危ないよ〜!!

 

そこへ、どこから調達したのやら、キーコキーコとトロッコを漕いでシャパクリャクが再登場。

 

 

シャパ:Эх, дрезинушка, ухнем, эх, зелёный сама пойдём(?).
(えー、トロッコちゃん、えんやこら。えー、緑色のトロッコちゃん、さあ行こう。)

Чемоданчик... пригодится. Порядочек. А теперь вперёд!
(トランクだわ、役に立ちそう。プレゼントね。さあ、前へ!)

 

"дрезинушка"は名詞"дрезина"(手押し車、トロッコ)に指小辞"-шка"がついた形。「小さなトロッコちゃん」てところでしょうか。

"ухнем"は「あっという、叫ぶ」という意味の完了体動詞"ухнуть"の一人称単数形ですが、ここでは"эх, ухнем"という決まり文句として使われています。これは船を曳くときの「エンヤコ〜ラ」というかけ声で、このことば自体に特に意味はないようです。

続く"зелёный ..."の部分は、ネットで見つけたスクリプトとDVDの音声が違っていたので自分で聴き取ったのですが、合っている自信はあまりありません。"пойдём"(さあ行こう)と言っているようには聞こえました。

 

続いて"чемоданчик"は「トランク」を意味する名詞"чемодан"に指小辞"-чек"がくっついた形。シャパクリャクばあさん、指小形好きだなあ。

"пригодится"は「役立つ」という意味の完了体動詞"пригодится"の三人称単数形。

"порядочек"は恐らく、"порядок"(贈り物)の指小形…? 指小形ってパターンが多すぎて掴めないんだよなあ。ま、ここではシャパが「いいもん見っけ、もらっておきましょ」とトランクをくすねた、ということですね。

"вперёд"は「前へ」という意味の副詞です。

 

 

さてさて、ゲーナたちのトランクを自分のものにしてしまったシャパクリャク

線路に沿って、ゲーナたちと同じ方向へ向かいます。

次回、シャパクリャクばあさん大活躍! お楽しみに!!

 

というわけでロシア語解説、ほとんど全ての単語・表現についていちいち辞書や語形変化アプリで調べながら書き進めているので時間がかかりますが、楽しいのでマイペースで続けていきま〜す。

また近いうちにお会いしましょう。