ワニのほうが紳士的。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その⑦〜
こんにちは。語学大好きかあさん、マミです。
またまたお久しぶりの更新となりました。愛くるしい人形アニメ「チェブラーシカ」からロシア語を学ぶプロジェクトをお送りいたします。
第三話「シャパクリャク」もいよいよ佳境にさしかかってまいりました。今回と次回で終わりにできると思います。では、今日もはりきって参りましょう!
※作品情報や「チェブラーシカ」プロジェクトを始めるに至った詳細などについては、こちらの記事をご覧ください(移転前の元ブログへのリンクです)。
また、既に解説済みのエピソードについては、下記リンクをどうぞ(こちらも元ブログ)。
現在解説中の『シャパクリャク』これまでの記事はこちらです。
カミカミアナウンスの魅力。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その①〜
ロシア語は流行歌も美しい。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その②〜
ボクが荷物を運んで、キミがボクを運ぶ。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その③〜
シャパクリャクの、甘〜い生活。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その④〜
仕事中にワニの来訪。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その⑤〜
きれいな緑のプレゼント。〜「チェブラーシカ」でロシア語を学ぶ〈第三話〉 その⑥〜
モスクワ郊外のきれいな川を、公害から守りぬいたチェブラーシカとゲーナ。
子どもたちとのお別れも済んで帰路につこうとしたとき、一緒にピンチを乗り越えた「いじわるばあさん」シャパクリャクが再登場します。
シャパクリャク:Так, сяк - наперекосяк,(あちこち曲がって、どうにかこうにか)
Едет на дрезине старуха Шапокляк.(トロッコに乗って、シャパクリャク婆さんが行くよ)
"так, сяк"は"так и сяк"ともいいますが、「どうにかこうにか、なんとか」くらいの意味。
ちなみに"сяк"という単語は"так"と調子を合わせるために使われる語で、特に意味はもたないようです。
"наперекосяк"は副詞で「曲がって、斜めに、脇道へ、悪い方へ」。"так, сяк"と合わせて、「あちこち曲がりくねりながら、どうにか進んでいってるよ」というような意味になります。
"едет"は「(乗り物に乗って)行く」という意味の動詞"ездить"の三人称単数形ですね。
"дрезина"が「トロッコ、手押し車」なので、その前置格形を使い"на дрезине"で「トロッコに乗って」となります。
"старуха"は「老婦人、老婆」。
つまり、「シャパクリャク婆さんが、トロッコに乗ってフラフラ進んでいくよ〜♪」みたいな歌をうたっているわけです。
ところでこのトロッコ、シャパクリャクが自分で操縦しているのかと思いきや、先ほど懲らしめたマナーの悪い観光客3人が後ろから押してあげているのでした。
ダイナマイトを川に放り込んだり、森のあちこちに痛そうな罠を仕掛けたりしていたワルモノ観光客たちですが、シャパクリャクはすっかり自分の手下にしてしまったようですね。
駅に入ってきた列車にトロッコで正面衝突(!)してから、悠々とホームに降り立ったシャパクリャク。
シャパ:Бери свой тортик. Свеженький.(ゲーキを持っていきなさい。新鮮よ。)
チェブラーシカ:Спасибо.(ありがとう。)
シャパ:Гена, ваши вещички.(ゲーナ、あなたの荷物よ。)
"бери"は「つかむ、持っていく」という意味の不完了体動詞"брать"の単数命令形。
"тортик"は"торт"(ケーキ)の指小形でしたね。
"свеженький"は「新鮮な」という意味の形容詞"свежний"のこれまた指小形。「美味しいケーキ」と愛情をこめて言っている感じでしょうか。
そして最後の"вещички"も「物」を意味する名詞"вещь"の指小形です。「あなたのもの」つまり「荷物」を指しています。
ケーキも荷物も、ゲーナ達が持ち帰るのをあきらめて置いていってしまったものですが、シャパクリャクが持ってきてくれたのですね(これも観光客たちに運ばせたんだろうけど…)。
そして、ゲーナが観光客たちに近寄って無言の圧をかけると、観光客のひとり・ペーチャが仕方なくゲーナの浮き輪を取り出しました。この期に及んでまだ盗みをはたらこうとしていたペーチャも、ワニに睨まれたら降参するしかありませんね。
と、今度はチェブラーシカに近寄っていくペーチャ。
旅行客1(ペーチャ):Здравствуй, Чебурашечка!(こんにちは、チェブラーシカ!)
チェブ:Здравствуйте.(こんにちは。)
ペーチャ:Эй, видишь, птичка...(おや、見えるかい、鳥だよ…)
チェブ:Где?(どこ?)
ペーチャ:Всё, улетела птичка.(あ、鳥は飛んでいっちまった。)
"видишь"は「見る」という意味の不完了体動詞"видеть"の二人称単数形。
"птичка"は「鳥」という意味の名詞"птица"の指小形。
"улетела"は完了体動詞"улететь"の女性形過去です。「飛ぶ」を意味する動詞"лететь"に「去って」という意味の接頭辞"у-"をくっつけた形で「飛んでいってしまった」となります。
ちなみに、ここで"всё"という語が使われていますが、主語が"птичка"という単数名詞なのに「全部」と訳すとちょっと不自然なので、ここでは「飛んでいってしまった、全くいなくなった」というニュアンスを強調する意味で"всё"という語が使われているのだと思います。
鳥なんて飛んでいないのに、姑息なウソで純真なチェブラーシカの気を逸らし(信じちゃってる素直なチェブが本当にかわいい)、今度はケーキの箱を盗み出すことに成功したペーチャ。全く、どこまでも性根の腐った男ですな。
でも、このケーキ箱、以前何かに入れ替わっていたような気がするのですが…?
ペーチャ:Тоо-ортик...(ケーキだよ〜…)
シャパ:Привести себя в порядок! А это что за верёвка?
(まっすぐ並びなさい! で、このヒモは何かしら?)
旅行客たち:Мамааа!!! Мы больше не будем!(ママー! もう二度としません!)
※シャパクリャク、この台詞の前にも何か言っていましたがスクリプトには無く、私のロシア語力では聴き取ることができませんでした…。
"привести"は「連れてくる、導く、もたらす」という意味の完了体動詞。
"привести в порядок"で「整然と並ぶ、きちんとする」という意味のイディオムになります。
"верёвка"は「ヒモ、綱」という意味の名詞です。
シャパクリャクがケーキ箱のヒモを引っ張ると、ダイナマイトが爆発!
そうそう、観光客たちが自然を荒らすために持ってきたダイナマイトが、物語の途中でケーキ箱と入れ替わっていたんだった。因果応報ですねー。
観光客たちは"Мы больше не будем!"(もうしません!)と言っています。
そういえば、DVD第一話の「ワニのゲーナ」のラストシーンで、シャパクリャクが自分のいたずらを悔いて"Я больше не буду."と言っていましたね。この同じせりふを、シャパクリャクが今度は他のイタズラ者に言わせたのだと考えると、なんだか感慨深いものがあります。ただのいじわる婆さんから、友だちのために一肌脱ぐことのできる頼れるおばあちゃんになったんだなあ。
旅行客2・3:Ну, кто это придумал? Кто?(おい、こんなこと考えたのは誰だ? 誰なんだ?)
旅行客1:Я!(俺だ!)
旅行客2・3:Балда ты, Петя!(ペーチャ、この間抜け!)
"придумал"は「思いつく」という意味の完了体動詞"придумать"の男性形過去。
"балда"は「とんま、間抜け、でくのぼう」と人を罵倒する語です。
シャパ:Вот вам ваши деньги и билеты!(あなたのお金とチケットだよ!)
ゲーナ:Спасибо.(ありがとう。)
チェブ:А у Вас есть билеты?(あなたはチケット持ってるの?)
シャパ:Условности, я и на крыше доеду.(いらないわ、屋根に乗って行くもの。)
ゲーナ:Нет, нет, нет! Вы поедете в купе вместе с Чебурашкой.
(ダメです、ダメです! あなたはチェブラーシカと一緒に行ってください。)
Чебурашка маленький, а Вы всё-таки дама!
(チェブラーシカは小さいし、あなたは…全くもって…レディなんですから!)
シャパ:Дама... Спасибо, Гена. Ух, крокодил.
(レディね…ありがとう、ゲーナ。すてきなワニさん。)
"условности"は"условность"の複数形。
"условность"は「条件性、形式」という意味が転じて「無意味になったしきたり」という意味でも使われるそうで、ここではシャパクリャクが「屋根に乗っていけば切符なんか要らない」という意味で「切符は無意味だ」と言っているのだと思います。
「屋根」という意味の名詞"крыша"の前置格形を用い、"на крыше"で「屋根に乗って」となります。
列車の屋根に乗って!? すごい時代だなあ…。しかしゲーナは猛反対。
"купе"は「コンパートメント、(列車の)個室」。
"дама"は「女性」という意味の名詞です。
「女性が屋根に乗るなんてダメだ! 私が屋根に乗るから、あなたは個室に入っていてください」って、なんて紳士的なのかしら!
しかもこれ、ただのレディーファーストじゃないんですよ。物語の冒頭で自分たちの切符を盗み、イタズラで散々困らされた相手なんですよ。そのシャパクリャクに対して、ここまで義理堅く接するとは… !
なんという徳の高さ。ゲーナよ、ワニのくせに、かっこよすぎるぞ!
自然破壊していた観光客たち、ゲーナを少しは見習ってほしいものですね。
さて、シャパクリャクは"дама"という言葉に気をよくして、チェブラーシカと共に列車に乗り込みました。
列車は走り出し、ゲーナは屋根にぽつんと一匹…と思いきや、チェブラーシカも屋根にのぼってきました。
チェブ:Гена, я с тобой поеду.(ゲーナ、君と一緒に行くよ。)
ゲーナ:Спасибо, Чебурашка.(ありがとう、チェブラーシカ。)
そしてシャパクリャクも来ました。結局、屋根の上に全員集合です。
シャパ:Молодец, старик - не оставил друга.
(えらいわ、おチビちゃん。友だちを大事にしているのね。)
А ну-ка, подвинься... крокодил, играй.
(さて、つめてちょうだい…ワニさん、弾いて。)
"старик"は「老人」という意味の名詞ですが、ここではチェブラーシカに呼びかけていますね。この語には「ベテラン」という意味もあるので、わざわざ屋根に登ってきた小さなチェブラーシカに敬意を払い、あえてこういう呼び方をしているのでしょうか。
"оставил"は「置いていく」という意味の完了体動詞"оставить"の男性形過去。ここでは「(友だちのゲーナを)一人きりにすること」を意味しています。
次の"ну-ка"ですが、"-ка"という助詞には「命令の意味を含む語につけて語調をやわらげる」という働きがあります。
"подвинься"は「ちょっと動く、横につめる」という意味の完了体動詞"подвинуться"の単数命令形なので、この語に"ну-ка"を添えることで「ちょっとつめてね、ごめんなさいね」というようなソフトな語調になるわけですね。
"играй"は「演奏する」という意味の動詞"играть"の単数命令形。ゲーナのガルモーシカ(ロシアのアコーディオン)を渡しながら言っています。
疾走する列車の上で、3人は仲良くモスクワへと帰ってゆきます。
いじわるばかりだったシャパクリャク、チェブとゲーナとの友情を少しずつ深めることができるようになりましたね。
次回、ゲーナのうたう歌の歌詞をじっくりと味わって、この「シャパクリャク」は終了となります。
と、その前に、ロシア語ライティングの記事も書くことになろうかと思います。
4月分の更新、なんとかギリギリ間に合って良かった…。
次に更新するときは元号が変わっているのですね。隔世の感!
ではまた、近いうちにお会いしましょう〜。